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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
踊るチンドン屋を先頭に、可愛らしい洋服姿の茂。そのまたあとには、小牛の様なシグマ。いとも不思議な行列が、淋しい屋敷町を、どこまでもどこまでも歩いて行った。
それとは知らぬ、客間の倭文子。チンドン屋の音楽が、段々遠ざかって、とうとう聞えなくなってしまったのに、いつまでたっても、茂少年が帰って来ないので、ふと心配になり出した。
女中を呼んで、門前を探させて見たが、茂は勿論、愛犬のシグマさえ、どこへ行ったのか、影も形も見えぬという。何とやら唯ならぬ感じだ。
倭文子も、三谷も、召使達も、青くなって、邸の内外隅まで探し廻ったが、どこにも姿はない。そこへ、所用があって外出していた、乳母のお波が帰って来て申訳がないと泣き出す騒ぎである。
まさかチンドン屋に連れ去られたとは想像もしなかったが、こんなに探しても見つからぬ所を見ると、若しや人さらいの所業ではないかと、誰の考えもそこへ落る。
警察へ届けるか、イヤ、もう少し待って見ようと、ゴタゴタしている間に、時間は容赦なくたって行く。
やがて日が暮て、戸外が暗くなるにつれて、不安は募るばかりだ。果しも知れぬ暗闇の中を、母の名を呼びながら、さまよっている茂少年の、哀れな姿が見える様で、悲しい声が聞える様で倭文子はもう、居ても立ってもいられぬ気持である。