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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
そして、いつの間にか、じゅうたんの窪みに、不気味な血の池が出来ていたのだ。
殺された倭文子の血潮でないことは明かだ。成程長椅子の表面に血のあとはあるけれど、それはとっくにかわいてしまった。今頃までしたたり落ちている筈がない。
しかも、今、血の雨だれは、刻々その速度をまし、ついには赤い毛糸の様につながって、益々はげしく降りそそいでいるではないか。
巨大な長椅子そのものが、まるで一個の生物ででもある様に、血を流しているのだ。
人々は息を呑んで、その血の雨だれを凝視したまま、立ちつくした。
無生物の長椅子が、うめき、のたうつが如き、奇怪な幻想が、彼等を悩ました。
園田黒虹の犯罪小説「椅子になった男」を読まれた読者諸君は、すでにすでに、悪魔のトリックが如何なるものであったかを、気付かれた筈だ。
アア何という異様な着想であったろう。谷山三郎は、その長椅子の中に身をひそめて、もたれと座席との境目の、深い隙間から短刀を突き出して、そこに腰かけていた倭文子を殺害したのだ。
彼は黒虹の小説をそのまま、椅子になった男であった。
長椅子を破って見ると、厚いクッションの下に、バネの代りに、瀕死の谷山が、長々と横たわっていた。