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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

「椅子になった男……ですって?」

「そうです。ね、園田は谷山の助手を勤めて非業の最後をとげた男です。彼等は一度は友達だったのです。で、谷山があの小説を読んでいない筈はありません。読めば、あいつのことだ。小説家の考え出した奇抜な空想的犯罪を、そのまま実際に行って見る気にならなかったとはいえません。……なぜって、ホラ、丁度五日前には、新調の家具が、その部屋に運びこまれたのですからね」

「家具ですって?」

園田黒虹の奇怪な小説を読んでいない恒川氏には、まだ明智の真意が分らなかった。

「倭文子さんの殺された長椅子です。その長椅子をよく調べてごらんなさい」

警部は、受話器を握ったまま、その長椅子に目を向けた。そして、ジッと見つめている内に彼の目は、いい知れぬ驚愕に、大きく大きく見開いて行った。

カタンと音を立てて、受話器が、彼の手をすべり落ちた。

「あれ、あれを見給え。あの椅子の下を見給え」

警部の叫び声に、人々の視線が、そこに集中された。

ポトリ、ポトリ、…………

雨だれのような、かすかな音が聞こえる。

長椅子の底から、床のじゅうたんの上へと、真赤なしずくが垂れているのだ。