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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

顔一面の引釣、赤くくずれた鼻、長い歯がむき出しになった、唇のない口、この世の中のものとも思われぬ、不気味にも醜い怪物であった。

やがて、俯伏している襟元に、スーッと冷い風を感じた。扉が開かれたのであろう。

アア、一歩、一歩、あいつが近づいて来るのだ。と思うと、居ても立ってもいられぬ怖さだが、逃げようにも、身体がすくんで、立上るのはおろか、顔を上げることさえ出来ぬ。悪夢にうなされている気持だ。

倭文子は見なかったけれど、扉をあけて、はいって来たのは、黒いマント様のもので、身体ばかりでなく、顔まで隠した、異様の人物であったが、マントのふくれ具合といい、その隙間からチラチラ見える素肌といい、彼は真ぱだかの上に、直接マントだけを引かけているらしく見えた。

男は倭文子の上に、のしかかる様な格好になって、またもや不明瞭な声で、

「お前さんの言葉が、本当か嘘か、今すぐためして上げるよ」

といいながら、倭文子の背中を、軽く叩いたが、その拍子に、左の手首が、彼女の頬にさわった。

倭文子は、その手首の、瀬戸物みたいに、固くて冷い肌ざわりに、ゾッと動悸が止ってしまう様な、恐れを感じた。