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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

それから暫くたって、この辺をいくら探して見た所で、誰もいなかったのは、当り前なのです。ハハハハハハハ、何とあっけない、手品の種ではありませんか」

いわれて見ると、成程それに相違ない。あの時は、慌ててもいたし、夜のことで、今よりも一層暗かったのだ。賊のちょっとした気転に気づかなかったのは、是非もない。

「ここを飛び出した賊はどこへ行ったか。いうまでもなく、裏の塀際の物置小屋、そこから地下を通って、例のマンホールです。見張りの巡査はいたけれど、あなたと同じ様に、塀ばかり見つめていたことでしょうから、隙を見て、穴から逃げ出すのは訳はない、……これが、あなたのいわゆる妖術の種明しですよ」

二人は更に、怪賊が消えうせたという、邸内の廊下を検分したが、そこにも、燈火の蔭を利用して、身をかわす余地がないではなかった。

第一に畑柳家の書斎での、奇怪な殺人、続いて死体の紛失、怪物を発見して、追駆けて見ると、例のマンホール利用の消失と、不思議が次々と重なった為に、何でもないことが、妖術めいて見えたのであろう。

それが、マンホール、穴蔵の天井の隠れ場所と、賊のトリックがあっけなく暴露されてしまうと、今度は反対に、廊下での消失など、最早調べて見るまでもない様に思われて来る。