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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页
信吉はじっと視線をはなさなかった。そして「この女はおれが好きだろうか、きらいだったら逃げる筈だが……。しかし、きらいでなかったら、即ち好きだということにならない。だいいち、おれには女に好かれるような所はない。この女の好きなのは薄井かも知れない。薄井とは随分馴馴しくしていた。いや、薄井のほかに好きな男があるのかも知れない。おれにはただ一劇作家としてつきあっているだけかも知れない。この女にベーゼしたら、きっと恥をかくような目に会うだろう。ベーゼに失敗したらすぐに東京を立とう。しかし、成功しても二時以後ではだめだ。二時にやらなくちゃ何にもならない」
と、考えているうちに、百八十秒が立った。
「二時!」
信吉はひそかに呟くと同時に、何か空虚な気持になった。
が、急に信吉は立ち上った。冴子ははっとした。信吉はいきなり冴子の肩に手を掛けた。冴子は、
「いや!」
と、顔をそむけた。
信吉は動物的な昂奮に青ざめた自分の顔が、ふっと半泣きの表情をうかべているのを、意識しながら、もう一度抱き寄せようとした。
冴子は椅子から立ち上って、部屋の隅へ逃げた。
そして、いもりのように壁にへばりついて、背中を向けていた。