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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页
信吉はふと眼をあけた。すると、急に接吻の姿勢の緊張した醜さが、意識されて、何かおかしかった。リアリズムの世界が甦って、そして、信吉は照れたのだった。
「思わず知らず長いキスを続けるなんてだらしがないぞ」
不自然な行為も唐突できらいだったが、同時に無意識の行為もかなわなかったのだ。要は、エスプリがないと思ったのだ。
人間は誰でも接吻する。阿呆でもする。あるいは短かく、あるいは長く。しかし、いくら長いといっても、限度はある。接吻よりももっとはげしい例の行為には、確然とした終りがあるが、接吻には、これで終りという生理的なコースはない。しかし、とにかく、永久に口づけしておれないからいつかは止める。どの辺りで止めるか、人さまざまだが、しかし、信吉のように、エスプリがないと思ったことが、相手の唇からはなれる動機になるというのは、些か異例であろう。すくなくとも、相手の女性に対して失礼であろう。
しかし、冴子はそんなことを考える余裕なぞむろんなかった。
冴子は気絶せんばかりであった。信吉の背中を抱いた手に力がはいったのも、そうしてしがみついていなければ、倒れそうになったかも知れなかったからだ。