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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页
「あなたは才能があるから好きだ」とか、「あなたは魅力があるから好きだ」とか、甚しきに到っては、
「あなたは美貌だから好きだ」などという言葉を期待している男だ。ナルシスだ。
信吉が女を誘惑するのは、好色ではなく結局自尊心の満足のためであり、ナルシスの彼は、女から彼の美点を賞讃してもらいたいために、女に好かれたいのだ。
しかし、冴子の返答は期待の通りではなかった。
「いつか、ほら、三原橋の停留所で、あなたはこうおっしゃったでしょう。――どうも雨の夜、電車を待っているのは、寂しいですね。僕も何だか昨日にくらべると、一躍有名になったみたいだけど、こうしてしょぼんと雨に吹きつけられて電車を待っていると、人間って奴は案外寂しいもんだなアという気がする――って。あたし、それ聴いた時、あんたが好きになったのよ。だから、マッチを持って来てあげたのよ」
その三原橋の停留所で、信吉がその言葉を言った時、冴子はびっくりしたように、信吉を見上げた。――一度それと同じように、信吉はびっくりして冴子の横顔を覗いた。
そんな風に答えられる冴子のエスプリが気に入ったのだ。この女は案外人生を深く見つめている――と、元来人生を浅く見ている信吉は、驚いていた。