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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

この勘に信吉はしかし自信があるわけではなかった。運に任せているのだ。そういう意味で宿命論者だ。人生は信吉にとっては偶然の堆積だ。この偶然を作り出す運を、信吉は信じているのだ。

信吉はゆっくり煙草を吸い終った。そしてそれを踏み消すと、もう一本吸いたくなった。ところが、マッチ箱にはもう一本も残っていなかった。しかし信吉の経験では、ポケットに一本ぐらい残っていることが多い。時間を計算しながら、信吉はゆっくりポケットの中を探してみた。が、遂に見当らぬと判ると、信吉は思わずにやりとした。不気味な笑いだった。

「よし、今だ!」

信吉は競馬場の馬券の発売口へ行く男のように、舞台裏から楽屋口の方へ出て行った。途端に信吉はドキンとした。冴子が下駄箱から靴を出して、スリッパとはきかえている所だった。

そのまま信吉が出て行ってしまえばもうそれっきりだ。こんな時、信吉はゆっくり歩いてあとから来る冴子を待てない男だから、冴子が靴をはいている間に、二人の距離は遠ざかってしまう。といって、靴をはいている傍で、ぽかんと立っていることも出来ない。いわば信吉の出は少し早すぎたかも知れないのだ。