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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页
名前は信吉だが、いかなる思想も信じたことのない信吉は、転向者の心理というものが判らず、皮肉のつもりではなく、ナイーヴな気持から、きいてみたかった。
「さあ、そりゃねえ……」
「たとえば、田村さんはどうなんです?」
「…………」
田村は冷たく澄んだ眼にふと驚異の表情をうかべて、信吉の顔を見たが、返事はしなかった。
「転向といえば、これまで抱いていた左翼思想のあやまちを認めることでしょう……?」
「まア、そうね」
「あやまちを認めて戦争に協力する事を誓えば、こりゃ右翼になりますね、そんなに簡単に左翼から右翼になれるんですか」
「右翼になった方が、戦争をしている以上便利なんだろうね」
「すると便乗ですね」
「まア、そんなところだ」
「じゃ、左翼も左翼はなやかなりし時代には、便乗だったんですか」
と、信吉はからんで行った。
「いや、左翼は便乗じゃない。とにかく情熱はあったからね」
「しかし、情熱なら右翼の阿呆共も負けずに持っていますよ。情熱というより狂熱ですね」
そう言っているうちに、信吉の頭に、喋っている考え――というより言葉から、ふと思いがけぬ考えが発展して流れて来た。
「――つまり情熱なんですね。