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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页
「あなたは運命論者ですか」
「でなければ、君にこんなことは教えはしないよ。あはは……」
薄気味の悪い声で笑って、
「――さア空きましたよ」
と、信吉に新聞を渡すと、さっさと玄関へ出て行った。
信吉は東京劇場の広告を見た。作者の信吉の名が信三と誤植されていた。その「三」の数字に信吉はどきんとした。
「午後三時……」
時計を見ると、午後二時半である。
「あと半時間だ」
信吉は喫茶室へはいって行った。
空いた椅子へ腰を掛けて、ボーイの来るのを待っていると、信吉の向い側へ部屋の鍵と財布を持った若い娘が一寸頭を下げて坐った。
そこへボーイが来た。
「珈琲!」
信吉が注文すると、娘も、
「ソーダ水!」
信吉の顔は見ずに注文した。
雀斑が多いが、眼元がぱっちりして、下唇が少し出ている。何かソワソワと落ち着きのない容子だった。信吉はふと娘の部屋鍵の番号を見た。四二一号室!
「三五二号室ではない」
呟いたところへ、ボーイが注文したものを持って来たが、信吉の前へソーダ水、娘の前へ珈琲を置いた。
信吉と娘はふと顔を見合せて微笑した。信吉は娘の前へソーダ水を置いた。娘は信吉の前へ珈琲を置いた。