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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

三三三号室様

と書いて、受付へことづけて置いたことを想い出しながら、言った。

あんな気障な伝言をたのんで置いた以上行くよりほかに仕様があるまい。

「あなたは行かないんですか」

信吉がそうきくと、男は急に笑い出した。

「あたし……が? あはは……。あたしがどうして行かなくっちゃならないんですか、冗談じゃない。あたしが行く……? あはは……。笑わせるよ」

信吉はこいつ狂人じゃないかと思った。

「一体あんたはどなたですか」

「あたしですか」

「名前は明かせないとおっしゃいましたね」

「明かすと、土下座しなくちゃならない……? 冗談ですよ、ありゃ。なアに、明かしてもよござんす」

そして、声をひそめると、男は、

「――二幕目でかげで新内を語ってた男がいるでしょう」

と、にやりと笑った。

「じゃ、あなたが……」

信吉は直感した。

「そうです。あたしが語ってたんですよ」

「そうですか、ちっとも知らなかったもんですから、つい……」

「いやア、――ところで新内はお好きですか」

「好きですね」

「どうして……?」

「新内って叫びですね。からだごと投げ出してしまうような芸術ですね。デカダンス音楽はもう新内に尽きますな」