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がくもんのすすめ

学問のすすめ

福沢 諭吉

「学問のすすめ」1872(明治5)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 87,080 字 · 170 页

青空文庫

わが親を殺したる者はすなわちその国にて一人の人を殺したる公の罪人なり。この罪人を捕えて刑に処するは政府に限りたる職分にて、平人の関わるところにあらず。しかるにその殺されたる者の子なればとて、政府に代わりて私にこの公の罪人を殺すの理あらんや。差し出がましき挙動と言うべきのみならず、国民たるの職分を誤り、政府の約束に背くものと言うべし。もしこのことにつき、政府の処置よろしからずして罪人を贔屓するなどのことあらば、その不筋なる次第を政府に訴うべきのみ。なんらの事故あるもけっしてみずから手を出だすべからず。たとい親の敵は目の前に徘徊するも私にこれを殺すの理なし。

昔、徳川の時代に、浅野家の家来、主人の敵討ちとて吉良上野介を殺したることあり。世にこれを赤穂の義士と唱えり。大なる間違いならずや。この時日本の政府は徳川なり。浅野内匠頭も吉良上野介も浅野家の家来もみな日本の国民にて、政府の法に従いその保護を蒙るべしと約束したるものなり。しかるに一朝の間違いにて上野介なる者内匠頭へ無礼を加えしに、内匠頭これを政府に訴うることを知らず、怒りに乗じて私に上野介を切らんとしてついに双方の喧嘩となりしかば、徳川政府の裁判にて内匠頭へ切腹を申しつけ、上野介へは刑を加えず、この一条は実に不正なる裁判というべし。