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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

廊下の小坊主は、気のせいでなければ、大方いたずら猿めが迷い込んでいたのであろうと、一向取合ってはくれなかった。

だが、怪異はそれで終った訳ではない。翌日は昼間から、不思議なことが起った。川手氏が老人達の部屋で暫らく話し込んで、自室に帰って見ると、床の間に置いたスーツ・ケースの位置が明かに変っていた。紫檀の大きな卓の上に置いてあった懐中時計が裏返しになっていた。同じ卓上の手帳が開かれていた。

一度なれば川手氏の思い違いということもあるだろうが、二度三度同じことが起った。今度は念の為めに、色々な品物の位置をよく記憶して置いて、暫らく部屋を開けて帰って見ると、ちゃんとその位置が変っている。もう思い違いではない。この城郭の奥の方には、老夫婦も知らぬ何者かが住んでいるのだ。そして、川手氏を驚かせようと、企んでいるのだ。

そんなにおっしゃるなら、御得心の行くように、邸中の雨戸をあけて家捜しをして見ましょうと、その翌日は、三人で広い邸内を二階も下もすっかり調べて見たが、別に怪しいこともなかった。どの部屋にも人の住んでいたような気配は見えぬのだ。

それごらんなさい。