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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
あいつは、妙子さんと一緒にちゃんと僕達の目の前にいたんだ。アア、俺は、今までそこに気がつかないなんて、実にひどい盲点に引っかかったもんだ」
小池助手は目をパチパチとしばたたいた。博士の言葉の意味が、少しも分らなかったからである。
「目の前にいたといいますと?」
「今に分る。ひょっとしたら僕の思い違いかも知れない。しかし、どう考えてもその外に手品の種はないのだ。小池君、世の中には、すぐ目の前に在りながら、どうしても気の附かないような場所があるものだよ。習慣の力だ。一つの道具が全く別の用途に使われると、我々は忽ち盲目になってしまうのだ」
小池助手は益々面喰った。聞けば聞く程訳が分らなくなるばかりである。しかし、彼はこれ以上訊ねても無駄なことをよく知っていた。宗像博士は、その推理が確実に確かめられるまでは、具体的な表現をしない人であった。
やがて、車が規定以上の速力で、川手邸の門前に着くや否や、博士は自らドアを開いて自動車を飛び出し、風のように玄関へ駈け込んで行った。
客間に入って見ると、川手氏は、そこの長椅子にグッタリと凭れたまま、ものを考える力もなくなったように、茫然としていた。