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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

三日三晩、一睡もせず働き通した職人や人足たちは、掃き寄せられた芋虫のように、前後不覚にそこらに眠っていた。棟梁どもまでが、共に必死に働いたとみえ、縄帯やら縄襷をかけ、泥まみれの手足を大地へ抛り出して、工事がすむと同時に、そこで寝ていた。

信長は、その光景を遠くから目撃した。同時に彼は、藤吉郎という男の才分に、今まであることを知らなかった点を新たに発見していた。

(猿めは、よく人を使う)

と、密かに驚嘆したのであった。そして、

(心なき日傭どもをさえ、死ぬほど懸命に働かせ得る器量があるところを見れば、訓練ある兵どもを使わせたなら、一かどの采配は取れるだろう。戦へ遣って、百人や二百人は預けても、まず間違いはないな)

と、観たのである。

呉子の兵書にある一章を、信長はふと思い出していた。それは、

オヨソ戦ニ勝ツハ

ソノ極理

兵ヲシテ欣ンデ

死ナシムルニ有

と、いう語だった。

信長は胸の中でくり返してみたが、自分にはまだそれだけの器量があるかないか疑わしかった。――それは、戦略や戦術や権力ではないからである。

「お早いお眼ざめでござりまするな。御城壁、かように致し置きました」