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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

けれどそれは、長い紛議にはならなかった。信長の肚が先に決まっていたからである。老臣や一族をあつめて評議をひらいたのは、その肚構えを知らすためであって、穏健なる保身の方法や、旧態以下の領土の保持策を訊くためではなかった。

信長の肚を知ると、「心得て候う」と、ばかり勇躍して、持場持場へ帰った将星も多かった。

信長も、また、

「ここに用はない」

と、努めて彼らを即刻陣地へ追い返した。

従って、清洲は、平常と変らないほど、静かでもあったし、特に人数もふえていなかった。しかし、さすがに信長は、ゆうべも夜半に、何度となく起きて、軍飛脚の齎して来た報告を披いたし、今夜も、極めて粗略な夕食をすますと直ぐ、大広間の陣務の席へ着いていた。

そこには、数日来、彼の前を去らずに詰めきっている諸将が、さすがに、沈痛な眉をならべ、織田家興って以来の国難を、各※(二の字点、1-2-22)がその面上にも湛えていた。

寝不足でありながら皆、青白く冴えきった面をしていた。

森可成、柴田権六、加藤図書、池田勝三郎信輝――その他の帷幕。

席をすこし下って。

服部玄蕃、渡辺大蔵、太田左近、早川大膳などの諸士――物頭格の人々。