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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

と、左へ云って、暗に、今生の別れを、多年召し使って来た老人どもへ云った。

城を失い、主を失った老人や、女童たちの身の末が、いかに惨めなものであるかを、信長は知っていた。――思わず、眼がうるんで来るのであった。

熱い眼がしらを、じっと、ふさいだ一瞬に、駿馬月輪は、もう城外へ駈けていた。疾風のように、暁闇を駈けていた。

「殿ッ」

「殿!」

「しばらく」

遅れじと、彼の後から駈け続いて来る人々といえば、物頭の岩室長門をはじめ、山口飛騨守、長谷川橋介、それに小姓の加藤弥三郎、最年少者の佐脇藤八郎。

あわせて、主従わずか六騎。

ともすれば、信長の駒脚に、捨てられもせんと、近習の面々は、のめり蹌めくばかり駈けた。

信長は、後も見ない。

敵は、東に。

味方も前線にあり。

すでにそこの死処へ行きつく頃には、陽も高かろう。この国に生れてこの国の土に帰す、実に何でもないことである。永劫の時の流れから今日という一瞬を見れば。

信長は、駈けつつ思う。

「あいや!」

「わが君ッ」

突と、町の辻から、叫ぶ者がある。

「おう、森の人数か」

「さん候う」

「柴田権六にてあるか」

「御意!」

「早かったぞ」