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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

その中には、織田軍の侍大将と、今川方にも知られている佐々政次、岩室長門、千秋加賀守の首もあった。

見終ると、義元は、

「血ぐさい。血臭い」

と、顔を振って、後ろの幕を揚げさせた。

そして、鮮やかな真昼の空の乱雲を仰ぎ、

「やれやれ山間らしい涼風が立ちそめて来た。もはや刻限は午ちこうないか」

「いえ、午の刻は、はや過ぎておりましょう」

侍臣が答えると、

「道理で空腹を催した。昼飯をしたためよう。兵馬にも糧食の休みを与えよ」

「はッ」

と、旗下の人々が、令を伝えに出る。幕のうちは、同朋衆や小姓や賄方の者たちの動きで和んだ。折ふしまた、近郷の社や寺々や庄屋などが、連れ立って、祝の酒と土地の産物などを肴に持ち、

(陣お見舞に)

と、称して、献納して行った。

義元は、遠くから、その者たちに眼通りを与え、

「上洛の帰途には、追って、何かの沙汰を下すであろう」

と、善政を約束した。

そして土民の代表者らが立ち帰ると、

「よい折じゃ。酒をひらけ」

と、命じ、再び獣皮の褥にくつろいだ。

幕外の将たちも、こもごもに彼のまえへ来て、鷲津、丸根の勝軍につづいて、鳴海方面の戦況が、刻々、有利に展開していることを祝した。