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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

荷駄馬に、青い布や赤い布を飾って、その背に、当夜の餅を載せて、手紙と共に、中村の母へ持たせてやると、

「さ。お支度を」

と、聟どのは、これから婚家へ着てゆく晴れの麻裃だの袴だの、扇子だのを突きつけられた。

「はい、はい」

何事も、手伝いの女まかせに着せてもらう。

それを着終る頃。

空に新秋八月の宵月がちらとさし、軒ばには、門立ちの松明があかあかといぶされていた。

曳馬一頭、槍二本。その後から、聟どのは、新しい草履で、てくてく歩いた。

先には、二、三人が松明を持ってあるいてゆくのである。貝桶だの、屏風箱だの、唐櫃だのという華やかな祝言の荷は何もないが、鎧櫃一つに衣裳箱ひとつは担わせている。足軽三十人持ちの当時の侍が聟立ちとして、何の負目もないものであった。

負目どころか、藤吉郎自身はひそかな誇りをすら抱いていたであろう。こうしてこよい世話してくれる者や供についてくれた者はみな、縁者でもなければ頼んでつれて来た者でもない。すすんで自分のことのように、こよいの婚礼を歓んだり案じてくれる人々であった。

婚家の座敷に積んでみせる贅沢な荷もつはないが、彼の身はこういう人望を負って行った。