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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
02 第二分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页
藤吉郎は、逃げるように座敷へ駈けこむ。暁までも聟を擒人にして帰すなと、悪戯好みの友たちは円坐を作って、酒々と性急に呼び立てたりする。
そうしてどれほど飲んだろう。また、何を歌ったり舞ったりしたことか、弁えている者はほとんど幾人もなかったろう。やがての果ては型の如く、手枕、大の字、思い思いの寝相して、そこの広間に酔いつぶれていた。
夜も更ければしんと秋の味がしてくる。八月の庭面はもう秋草だった。酔っぱらいたちが静かになると、虫の音がすだき始める。草の根にまで白い夜露が降りていた。
「……おやッ?」
犬千代が、がばと、突然顔を上げて見まわした。見ると、藤吉郎も首を上げている。池田勝三郎も眼をあいている。
「…………」
眼を見あわせながら、お互いの耳をとがらしていた。庭面を越えた往来に聞えるのである。戞々と、深夜のしじまを破って通る轡の響きで眼をさましたのであった。
「はてな?」
「何であろ」
「だいぶな人数だが……?」
犬千代は、何か思い当ったように、はたと小膝を打って云った。
「そうだ。先頃、三河の松平元康の許へ、使者として渡られた滝川一益殿が、ちょうどもう帰らるる頃。