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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

養い方もいろいろある。兵馬の訓練は将士一体のことだが、個々の小閑には、書を読むもあり、酒をたのしむもあり、禅をやるのもあろう。藤吉郎の場合は、たいがい砦の奥のいちばん広い座敷を――がらんと空間にさせておいて、広縁のはしへ褥を運ばせ、それへあぐらをくんで、ぽつねんと陽なたぼっこをしているような折が多い。

或る時、家臣のひとりが、

「殿には、なぜお座敷におられませぬか。よほどお縁側がお好きでございますな」

戯れに問うと、藤吉郎もおかしそうに、

「何も、板縁に坐るのが好きなわけではないが、春の草々が芽ぐみ出すと、無性に土がこいしゅうなる。座敷よりは縁のほうが土に近いだろ。それだからこれにおるのだ」

と、いった。

その答えは、家臣の者には、何だか半解のようだったが、彼のうしろに、彼の刀をささげて居眠っている二人の童子には、かえって分ったようだった。

市松も虎之助も、春めくとよけいに畳の上よりは土が恋しくなった。藤吉郎は、洲股にある母が、今頃はまた菜園に出て、菜を作ったり豆を植えているであろうなどと、子の自分が多少立身しても、なお鍬を離さない母のすがたをぼんやり想像していた。