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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

「きょうも、お座所は、そちらでございましたか」

そこへ蜂須賀彦右衛門が来て、笑顔をもちながら手をつかえた。

「オ。彦右衛門か」

「だいぶ、山々の木の芽も、色づきましたな」

「人間も同じだと思わないか」

「ははは。お戯れを」

「戯れではない」

藤吉郎はまじめくさって、

「遠くにいる妻が恋しゅうなる」

あまり真顔なので、

「ここへお呼びなされてもよいでしょう。ならば洲股へ、お迎えをやりましょうか」

と、いった。

すると案に相違して、

「ばかを申せ」

と、頭から叱った。

「ことしは大乱だ。合戦また合戦とならざるを得まい。さてさて、眼先の見えぬ……」

「殿も、おひとが悪い。彦右衛門にそういわせるように、お誘いをかけながら」

「せめて、口にでも、恋しいというて、我慢の鬱をはらしたまでよ。――時に、捕虜の善性坊はどうしておるな」

「なすこともなく、日々、経など誦んでおります」

「本心ではあるまい」

「わかりかねます」

「まあいずれでもよい。将棋でいえば持駒というようなものだ。大事に養っておけ」

「余事ばかり申しあげて、お取次を忘れました」

彦右衛門は、手にしていた一通をそこへさし出した。今浜で静養中の竹中半兵衛からの便りであった。