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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

かえって領民は、前の領主のやり方と、似て非なる信長のやり口を疑っていたろう。信じないはずだ」

自堕落な領主の下に、自堕落に生きて、滅亡を告げ果てた歴史を眼で見ている領民である。彼らが今求めているのは、斎藤家のそれとはちがったものであるにちがいない。

自分だに、信念と徳を示せば、彼らはよろこんで、艱苦を享受するにちがいない。むしろ清新な希望をかかげ、民心に、艱苦せよということであった。

子に対する父の愛を、もっと宇宙大にもしたような、民心への大愛をもって。――しかも民心を打つことだ、鞭打つことだ。

蘭丸は、室のすみに、その小さいすがたと年齢のわりにしては、余りに行儀よく、ちょこねんと坐っている。

が――いかに彼が怜悧でも、信長の心のなかの惨憺たる経営はわからない。

「うたた寝を遊ばしては」

などと、彼の手枕の顔を、遠くから案じていた。

山の若葉を漉してくる夜風が冷たくなった。蘭丸は立って、

「まだ御寝所へ入らせられませぬか」

と、信長の顔へそっといった。

「もう少しこうしていよう」

ほそく開いた主君の眼には、睡そうな気はすこしも見えない。蘭丸は、信長の背へまわって。