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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
04 第四分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页
どこか異相にはちがいないが、彼に謁したことのない者がよく、どんな怖ろしいお方かなどというが、そんな近づき難いひとではない。むしろ温容のほうであろう。――ただ見るからに重厚な風をそなえ、眉といい手脚といい、多毛質で不屈な面がまえではあるが、これは山国甲斐の人の共通な特色で、ひとり信玄に著しいわけではない。
「ではお暇を」
「退らせて戴きます」
伽藍のうちから次々に席を立って退出してゆく人々は、階を降りて、もういっぺん廻廊にある彼のすがたへ、挨拶してゆくか、黙礼をして散って行った。
朝からの軍議だった。――軍議といえば、彼は具足を下に着、緋衣をうえに纏って、陣中にあるとおりな装いをしていた。
さすがにきょうの暑さと長座にはややつかれたものとみえ、今しがたそれが終ると、一同から退出の会釈をうけて、すぐ廻廊の外に立ち出ていたのである。
小幡、内藤、山県などの譜代をはじめ、逍遥軒孫六、伊奈四郎勝頼、武田上野介などいう一族にいたるまで、およそきょうの軍議に列した者は、踵をついで帰って行った。――それがみな云い合わせたように、どこか沈重な眉と、決意をもった唇と、倉皇と先をいそぐ足どりをして行った。