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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
04 第四分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页
ここの土を措いて他国に骨を埋める地はないのである。
信長は、使いの返事をうけて、
「困った逸り者」
と、つぶやいたが、そのためか、叡山の事が終ると、例の足早で、疾風のごとく、岐阜へ帰っていた。
その早さには、信玄もまた舌打ちをもらしたろう。さすがに彼も機を見ることは敏であるから、
「また時もある」
と、甲山の彼方へ旗をひそめてしまった。
こういう険悪な空あいのうちに年は暮れて、元亀三年の春は迎えられた。
その春。
熱田神宮では、本殿そのほか、大修理の工事にかかっていた。
応仁の乱このかた、めずらしい鑿の音だった。
地方民も豪族も、長いあいだの不安と暗黒に漂って来て、各※(二の字点、1-2-22)が自分たちの営みにだけ追われていたかたちだった。
荒れきった神宮の森に、この春、鑿の音を聞くと、かれらは、耳をそばだてて、
「どなた様の御寄進であろう。さても御奇特な」
と、にわかにそこの勿体なさに眼をみはった。
「――年の暮、熱田の祠官岡部又右衛門どのを岐阜へお召しになって、信長様が、私財をもって、お命じなされたものだそうな」
こう実相が伝わると、
「あの、信長様がか?」