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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

酒井忠次の手勢は、ためにさんざんに駈けくずされた。

「くずれ立ったぞ」

勝ちほこる声が、甲軍にあがる。――と見るや小山田隊は、迂回して、徳川方の二の備え、織田勢の側面へ馬けむりをあげて来た。

見るまに、甲軍の大兵によって、鉄の輪のような囲みができてくる。織田兵も、酒井、本多、小笠原などの旗じるしも、すべてその中に揉み揺られていた。

中軍の小高い陣場に、味方の全線をながめていた家康は、

「――ウム! 負けたッ」

と、はっきり呻いた。

「……ぜひも、ございませぬ」

凝視して、同じように、側に立っていた軍目附の鳥居忠広は、ちと、無念そうに、唇をかんだ。

きょうの戦いばかりは、どれほど諫めたことか。

――勝目はありません!

断言して、家康に、手出しを止め、こよい敵が祝田に野営するところを放火して奇襲するようにすすめたのであったが、老獪な敵の信玄は、わざと、小人数の抑えをのこして家康の手出しに「放し餌の戦法」を掛けたのであった。

「はや、手の下しようはありませぬ。この上は、味方をおまとめあそばして、一時浜松へ」

「…………」

「お引揚げが、一瞬早ければ、一瞬の利がありまする」