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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

「畜生」

惨たる敗軍の名を負って、われとわが身へ怒るような顔が、宵から夜半にかけて、続々と、雪の城下へなだれ帰って来る。

空は赤かった。

木戸の口々の篝のせいである。

が、大地の雪の紅は、駈けまわる武者のこぼした血しおに違いない。

「――殿はどう召された?」

半ば、人々は発狂している――泣いている。

もう先に家康は、浜松の城内へ帰っているものと思って引きあげて来たところ――

「まだ、御帰城はない」

という留守衆のことばに、さてはまだ敵の重囲のうちにおありか、或いは、御戦死か、いずれにせよ、殿より先に逃げて来たといわれては、浜松の住民に対しても、面目ないと、城にもはいらず地だんだ踏んでいるのだった。

その混雑のところへ、

ドドドドッと、すぐ西の木戸のあなたで鉄砲の音がした。

敵軍だ。最期は迫った。もうここまで甲州勢が来るようでは、殿の運命もおぼつかない。

徳川家の人々は、

「これまで」

「このうえは!」

と、絶望の眼じりをあげて、わッと、鉄砲の音へむかって、討死を果しに駈けだした。

すると、木戸のあたりに押しもんでいた味方のかたまりを衝きやぶって、吹雪と共に、どッと駈けこんで来た騎馬の面々がある。