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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

足軽の末までも、よく苦戦に耐えてくれた。

家康は満足だった。取りあえず左右の者の功を賞したのも、政治ではない、心からな満足の溢れであった。

湯漬を喰べ終るや否、彼は本丸を出て、諸所の防備を見まわり、天野康景と植村正勝のふたりに惣懸り口の防ぎを命じ、鳥居、内藤、水野、酒井の諸将を配して、大手から玄関口までの守りに当らせた。

諸将は、死守を誓って、

「たとえ甲州の大軍が、その全力をかたむけて、これに襲せ参りましょうとも、御武威を示して、石垣の一つだに、取りつかせることではございません」

と、口をそろえて壮語した。強いてでも、家康を安心せしめ、家康を励まそうとしたことばだった。

「うむ!」

家康は、その意気を受けとって大きく頷いたが、諸将がすぐ部署へ駈け向おうとすると、呼びとめてこう注意した。

「大手の城門、多門、玄関まで、すべて閉じてはならんぞ。城門はみな開けひろげておけい。――よいか!」

「えッ? ……何と仰せられましたか」

諸将はみな疑った。

自分たちの意志とはまるで反対な命令だからである。

すでに城門は大手といわずどこも鉄扉を閉めてある。味方の総くずれを追迫して、敵の大軍はもう城下間近まで来ているのである。