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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
04 第四分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页
と、幕の外へ呶鳴った。
わずか一刻ほどしか、彼女は藤吉郎の側に休んでいなかった。
兄のいる床几場へ戻って、身躾みをつくろい、兄の半兵衛も、具足を脱って、涼やかな平服に着かえるのを待ち――それから間もなく、ふたたび陣所を出て行った。
半兵衛と、ただ二人きりであった。
半兵衛も駒に跨がり、彼女も駒に乗って、水色の被衣をかぶっていた。戦場を行く旅人にしては、優雅な姿であり過ぎた。
垂井の宿場あたりで陽が暮れた。――それから伊吹山の裾野を、悠々と、駒を打たせて行った。――ちょうど大きな夏の月が、関ヶ原の彼方からさし昇って、道は昼より明るく、伊吹颪は、秋のように爽やかだった。
伊吹は東。松尾山は西。
不破の街道を挟んで、関ヶ村から山ふところへはいってゆく。
ズドン!
と、鉄砲の音が谺した。
半兵衛は、駒をとめて、
「於ゆう。驚いたであろ」
と、わざと、微笑した。
「いいえ」
於ゆうは、強がりでなく、そう愕いた様子もない。――間もなく、人の跫音が駈けてくる。
「止れッ」
二人の駒の前後に、四、五本の槍がキラキラ月影に並んだ。
半兵衛は、馬上のまま、
「それがし達兄妹は、御城代樋口三郎兵衛どのへお会いしに参る者でござる。