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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

そのうちに、朝倉と足利公方との、密盟がむすばれ、甲州の信玄とも、叡山とも、あらゆる反信長聯盟の構成のうちに、いつか長政もひきこまれていた。

その、のろしを揚げたのが、過ぐる年、信長が越前の金ヶ崎に攻め入った時である。

ふいに、うしろを衝いたのだ。遠征の信長の退路を断ち、朝倉家と呼応して、かれの全滅を計ったその時に、

(政略の妻には惹かれぬ)

と、長政は、その態度を、信長へ明らかにしたのである。

信長は、その折、

(嘘だろう)

と、疑ったほどだった。

自分が、長政を愛している真情にたいして、ありえないこととしたのである。

以来――

信長が見こんで、妹をさえ嫁がせた長政の武勇と浅井の勢力は、かえって、足もとの火となり、鎖となっていた。

そして遂に今。

一挙、越前を屠ったあとの小谷城は、もう火でも鎖でもなくなった。どうするも、信長の胸ひとつにある。

けれど今なお、信長のほんとの胸には、長政を殺したくない気もちがあった。――もとより長政の武勇も惜しんではいるが、より以上妹にたいする愛情の悩みであることはいうまでもない。

ひとは不思議に思った。

叡山の焼討ちでは、魔王と呼ばれることも辞さなかったあの殿が……と。