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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

三郎兵衛の降伏を知ると、苅安の城も、長比城も、みな血を見ずに落城した。――藤吉郎はそこで長浜まで軍をすすめ、於ゆうはそこから岐阜へ帰して、兵馬の装備を革めると、主君の信長のいる前線の地、姉川へ、

「この大戦に洩れては」

と、急ぎに急いで、昨日、ここに着陣、望みどおり信長の本軍と合したわけだった。

姉川の水は三尺、その広い河幅も、脛をもって渉ることができるが、その清冽は、夏なお身を切るように冷たくて、水源の東浅井の谿谷を思わせる。

元亀元年、六月二十八日、まだ夜の明けないうちであった。

信長の総軍二万三千。

それに徳川勢の約六千。

龍ヶ鼻から進んで、姉川の岸に備え立てた。

前夜。――夜半頃から。

敵の浅井、朝倉の聯合軍一万八千の兵も、徐々と、大寄山から行動を起して、姉川の左岸に当る野村、三田村あたりの民家を楯に、戦機を窺っていた。

瀬の水音ばかり、夜はまだ明けない。

「康政」

榊原康政は、暗い水際から、

「はッ」

と、主君家康のすがたを暁闇の岸にふりかえった。

「ひしひしと、敵は、対岸のすぐ水際まで襲せているな」

「霧で――よう分りませぬが、馬のいななきが、微かに」