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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

「いわばいえ。何とでも」

唾するように――

「が、長政は、妻の縁につながって、一命を助かろうなどとは、みじんも考えておらぬ由を、立ち帰ってよく申しつたえよ。……それとだ。妻のお市も、いまは信長の妹のお市ではないことを、弾正忠どのへ、得心まいるよう、くれぐれはなして上げるがよい」

「では、どうありましても、この城と共に、御運命を決するおつもりでございますか」

「わし以上に……妻のお市も、そう覚悟しておる」

「……ぜひもございませぬ」

説客の不破河内守は、もうあとのことばもつげず、これまでと、帰ってしまった。

そのあとの城中には、絶望的な――というよりも一種べつな空虚が、陰気にみなきっていた。

和議の使者に、平和を期待した城将や兵の一部が、

(やぶれたか……)

と、気落ちをあらわしたのと、それまでは、死を決していたものにも、ふと、生きのびられはしまいかという気がさしたため、にわかに、前のような結束と決死にもどれない心理になったからであった。

城中が陰気になったのは、もうひとつ理由がある。それは戦時中だが、長政の父久政の仮の葬儀が営まれ、次の日にいたるまで、本丸の奥のほうで、読経の声がもれていたからである。