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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

百年、悔いをあとにのこすな」

大声でいった。――いやいっているまに、駈け出して彼はもう城門のすぐ下まで来ていた。

「……おうッ、なるほど、織田家の木下藤吉郎だ。なんで来たのか?」

のぞき下ろした浅井方の将は、彼の目的を疑って、彼ひとりへの殺意などは忘れていた。

藤吉郎は、城門を仰いで、

「奥の丸へ、お取次ねがいたい。どなたでもよい、御一族へお取次ねがいたい」

と、ことばを重ねて呶鳴った。

「…………」

どうしたものか?

評議しているらしい声ががやがや聞える。やがてそれが嘲笑を交ぜてくると、城門のうえに、浅井方の一将が顔を出して、

「無用無用。何で来たか知らぬが取次はできぬ。おそらくはまた信長どのの使いで、説客に見えたのであろう。度々の徒労、むだなことだ、立ち帰れッ」

と、いった。

藤吉郎は、声を励まして、

「だまれッ、家臣の分際をもって、主人の意向もうかがわずに主人の客を追いかえす法やある。すでに落城したも同様なこの城を落すために、わざわざ手間暇かけて、説客に来たり詭謀をかまえる莫迦はない」

と、大言をはらい、

「それがしが参ったのは、信長様の代参として、長政どののお位牌へ焼香に来たのでござる。