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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

「しまった」

磯野丹波が、徳川勢と気づいて、しゃ嗄れ声をふりしぼりながら、返せッ――と叫びかけた時、何者か、彼の横あいから、びゅッと水に濡れた一槍を繰り出した者がある。

――ぱしゃッ

水けむりの中に丹波は坐った。脾腹へはいった槍のケラ首をつかんで起とうとする――起たせまいとする――瞬間、また、頭上にチカッと燦めいた、何人かの太刀が、がつんと、丹波の鉄兜へ打ちおろした。

刀は、幾つかに折れて飛んだ。丹波は起った。血しおに等しい川波が真っ赤に立つ。

「くそッ」

「ちいッ」

三、四人、いちどに丹波の前後から組みついて、脾腹、首すじ、籠手、深股、滅茶滅茶に突いたり、斬ったりしてしまった。

すわ! 敵が。

と、見たので、信長の旗下は、信長の幕営を出て、みな川岸へ、槍を揃えていた。

竹中久作は、木下隊だが、乱軍となっては、もう所属などにこだわってはいられない。猛敵浅井隊を追いかけて、信長の本陣の近くへ駈け上がっていた。

「……や。ここはもう?」

ふと見ると、何者か。

その信長の幕営の裏から――幔幕をかなぐり上げて、今し、そっと這いこんで行こうとする男がある。

具足、太刀の鐺など、雑兵とは見えなかった。