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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

と、舳からとび降り、けんもほろろに、駈け寄って咎めた。

「横山城の木下藤吉郎」

彼は、馬を下ってまた、ていねいに訊ねた。

「丹羽殿はおいでか」

「おお木下様でしたか。主人長秀は、今し方まで、検分に見えておいででしたが、はや今浜の御陣所へ帰られました」

まぎれもないその人と分ったので、奉行はにわかに態度をかえて、

「――何か御急用なれば、今浜の方へ、使いを走らせますが」

「いや、それには及ばぬ。実は供の中に、急病人が生じたので、一棟の小屋と医者を拝借したいと思うて参ったが、医者はおろうか」

「おやすいこと。てまえの仮屋までお越しくだされば、如何ようにも」

「其許は」

「丹羽家の臣、島木筑後です。先頃よりは、ここの船造奉行を仰せつかっておりまする」

「島木殿か。ともあれ、早速にたのむ」

「御病人は」

「あれにおる者だが」

ひとりの背に負われ、幾人かの同僚に労られながら、病人の半兵衛重治は、島木筑後の仮屋に導かれて行った。

彼方の柵のうちに、船普請役所が見え、それに附属した役宅が幾棟かある。藤吉郎は後に佇んだまま、

――これでまず安心。

と、いったような顔して見送っていた。