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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

しかし、色は白いし、目鼻立ちもよく、容貌では較べものにならない。

それに、村では、大尽子の方で、小袖らしい着物を着ているのも、於福だけだった。ほんとの名は、福太郎とか福松とかいうのだろうけれど、男名でも、頭字に於の字をかぶせて呼ぶことが、良家の風習となっているので、このお大尽子も、そんな真似をして呼ばれているものとみえる。

「やい、いったな!」

日吉は、誰に猿とよばれても、怒った例しはなかったが、於福にいわれると、睨めつけた。

「いつも俺が、庇ってやるのを、忘れたのか。白茄子め!」

日吉にそう罵られると、於福は何ともいえない、気の弱い顔をして爪を噛んだ。

白茄子と悪口をいわれたことよりも、恩知らずといわれたことが、子ども心にも、強く恥を感じたらしかった。

ほかの子供らは、もう眼を反らしていた。そして朝鮮蜂の代りに、畑の彼方を通る一筋の黄色い埃に眼をあつめた。

「ア、兵隊だ」

「武者が通る」

「戦から帰って来た」

わあっと、両手を挙げて、彼らは歓呼した。

領主の織田信秀と、隣国の今川義元とは、両立しない二つの勢力だった。国境方面では、絶えずどこかで小競り合いがあった。