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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
01 第一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页
チラと、日吉の顔を見、ぎょっとした顔つきだったが、それへ向っても、日吉はにやっと白い歯を見せただけだった。
「蜂須賀様へは、いずれ日を改めまして、お礼に参上いたしまする。何とぞよろしゅうお伝え上げねがいまする。また、わざわざ今日のお使い、ご苦労さまでございました」
茶わん屋夫婦、その子、奉公人たちが、一同頭を下げる中を、日吉は松原内匠の後について、手を振って出て行った。
(……藪山の叔母さん。どうしてるだろうな。叔父もあの大病。もう死んだかもしれない)
光明寺の山を仰ぎながら、日吉はそんなことを考えながら歩いた。
中村は、もうそこだ。
当然彼は、母やおつみの顔を、さっきから胸に思い出して、ちょっと駈け出して行ってみようかとさえ思うほどだった。
けれど、霜の夜、誓って出たことばがある――。今行っても、母を欣ばしてやる何ものもまだ自分の手にはなかった。
その中村の方へ背を向けて、うしろ髪をひかれながら、彼は内匠について歩いていた。すると途中で、
「おや、弥右衛門どのの伜じゃないか」
足軽ていの男が声をかけた。
「どなた様でしたっけ」
「日吉だろ。お前は」
「はい」