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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
01 第一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页
彼に限っては、どんな仕事でも仕事を愛することが出来た。それは、貧しく生れたからばかりではない。現在の仕事は、常に、次への希望の卵だったからである。それを忠実に抱き、愛熱で孵す時に、希望に翼が生えて生れることを、彼は知っていた。
(今の世のなかで、身を立てるには、何がいちばん大事か)
日吉は、考えてみたことがある。
それは、系図だ。家がらだ。
しかし、彼には、それがない。
家がらの次には、いうまでもなく、金と武力だが、その二つも、彼は持たない。
(では、何をもって、おれは世に出たらいいか)
と、自分に訊ねてみると、悲しいかな、肉体は、先天的に矮小だし、健康も人並より優れていないし、学問はないし、智慧は当り前だし……一体、何がある?
忠実。
それしか、考え出せなかった。それも、何を忠実に、などと考え分けてするのでなく、何でも忠実にやろうと決めた。忠実なら、裸になっても、持てると思った。
だが、その忠実を、どういうふうに行ってゆくか、と自問自答して、
――なりきる!
というところへ、彼の肚が据った。どんな職業でも、与えられた天職に、なりきってやろう。庭掃除でも、草履取りでも、厩掃除でも、なりきってする!