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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
01 第一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页
薦僧姿の密使、難波内記は、森かげに待っていたが、小六を見て、
「おう」
と、礼儀をした。
小六も礼を返し、そして双方が眼と眼とを、正しく交わしながら、片方の掌を、拝むように胸に当て、
「てまえが、小六正勝」
「それがしは、稲葉山の家人、難波内記にござる」
名乗り合ってから、もいちど低く頭を下げ合うのだった。秀龍は幼少の頃、妙覚寺に入り、顕密を学び、前身は僧であったこともあるので、美濃衆の合い言葉にも、顕密の語が用いられたり、こういう隠し作法にも、どこか寺院臭さがあった。
作法を交わして、お互いが、
(この者は、間違いない)
と見極めると、初めてうち寛いで、何でも話し合うのだった。
「猿。――誰が参っても、森へ入れるな。おれが許すまでは」
小六は、いいつけて、内記と共に、森の中へはいって行った。
森の中の二人の会見に、どんな密談が交わされたか、密書が開かれたか、日吉には知るよしもなかったし、知ろうとする気ももとよりなかった。
彼はただ、忠実に、森の外に立って、張番していた。
使いに行けば使いに。庭掃除になれば庭掃除に。張番に立てば張番に。――彼は持った仕事の人間になりきった。