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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

日吉は、ぞっとした。

松下家の家憲を紊す者として、手討になるかと思いのほか。

(今夜にも立て)

と、若干かの金子まで、嘉兵衛は能八郎の手から、日吉へ授けて、いうのであった。

日吉が、襟すじから、ぞっとしたような顫えを感じたのは、嘉兵衛の情けが――人の恩義というものが――骨の髄まで沁み入るほど、身にこたえたからだった。

「ありがとう存じまする」

主人の吩咐を、主人がまだ詳しく意中をいわないうちに、日吉にはもう分っていたので、つい、そういってしまったのである。

こういう頭脳が、奉公人たちの中に混じっていたら、奉公人には目まぐるいであり、憎まれ嫉まれるのは当然である。――嘉兵衛は、そう思って苦笑をうかべた。

「猿、何がありがたい?」

「は、わたくしを追放して下さるお気もちと察しまして」

「その通りじゃ、だが猿」

「はあ」

「何処へ行こうと、その才智を、もちッと、内に包まぬと、そちは生涯出世がならぬぞ」

「自分も左様に存じておりまする」

「知りながらなぜ、昼のような暴言を申し、家中の者を怒らせたか」

「つくづく、至らぬ奴と、後で自分で自分の頭を叩きましてございまする」

「気がついておるならもう何もいわん。