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がまのち

日本怪談大全 第一巻 女怪の館

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页

青空文庫

雪の夜の怪

昼間のうちは石ばりをしたようであった寒さが、夕方からみょうにゆるんでいる日であった。私はこの比よく出かけて往く坂の上のカフェーで酒を飲みながら、とりとめのないことをうっとりと考えていた。

「や、雪だ」

「ほんとだわ」と云ういせいの良い壮い男の声と、あまったれたような女の声が絡みあうなり、入口のガラス戸が敷居の上に重い軋りをさした。

「雪だわよ」

今のあまったれたような声がまた聞えて、それが私のいる食卓の前へ来た。女給のお幸ちゃんが客を送り出して帰って来たところであった。

「雪か、そいつは良いな」

私は顔をあげて銀色の電燈の光を浴びている女の顔を見た。

「よかないわよ、寒いわ」

私は良い気もちに酔うていた。

「良いじゃないか、雪がうんと降って、その雪が一丈二丈も積んで、路がこの上にできたら、按摩さんが二階の窓からおっこちて来るよ、あの按摩さんもね」

このカフェーは一人の盲人が来ているが、それは市会議員とか代議士とかの選挙があると、有志の一人になってその附近をまわると云う者もあった。なんだか黒い影を曳いて見える五十前後の男である。家庭にその男が出入したがために、そこの細君は良人の怒を買ってお穢屋の置いて往った柄杓で撲られたと云うようなことがあり、そのうちにとうとう劇薬自殺してしまった。