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がまのち
日本怪談大全 第一巻 女怪の館
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页
「逃げることよ、何時かもお宅の御門の処で往きあうと、私を見ないふりをして往っちまったじゃないこと」
「そんなことがあるものか」
「あったわ、私、ほんとにあの時は、若旦那を恨んだわ」
「俺は知らないのだよ」
「知らんことないわ」
「ほんとに知らんよ、それとも俺が、何か考えごとをしてたから、判らなかったかも知れない、ほんとに知らんよ」
「知らんことないわ」
「そりゃ無理だよ」
広巳はばかばかしくなって来た。広巳はいきなりお鶴を離れて歩いた。お鶴は追っかけて来た。
「若旦那」
「もうたくさん」
「ほんとよ、若旦那、聞かなくってもいいの」
「たくさん、たくさん、あばよだ」
「いやな人ね、ひとが云ってあげると云うのに」
「たくさん、たくさん」
広巳は頭にかかっていた塵を払い落したような気になって歩いた。
「おぼえてらっしゃい、若旦那」
「たくさん、たくさん」
たくさん、たくさんの詞は足の調子に乗って来た。広巳の体はたくさん、たくさんで歩いた。そして、歩いているうちに空腹を覚えて来たので、路傍で蕎麦店を見つけて入り、そこで蕎麦を喫ってまた歩いた。
(ぜんたい、なんのことだ)
広巳はお鶴の云ったことを思いだしていた。