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がまのち

日本怪談大全 第一巻 女怪の館

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页

青空文庫

それに三時比から降りだした雨は、まだ四時を過ぎたばかりであるのに、微暗く陰気で、それやこれやで、とうとうそのまま帰ってしまった。

その翌日は、それでも神保町のことを思い出さないでもないが、もう前日程の執着はなかった。その晩の帰りには、数寄屋橋の鳥屋で、新聞記者をしている友人と飯を喫ったが、その友人が帰りに茶でも飲んで別れようと云うので、そこを出ると日比谷の方へ歩いて往って、青山麻布方面へ往く電車停留場の左側の角になったカフェーへ入りかけた。十時比であったろう、電車へ乗る客は、そこの停留場にも公園の口になった処にも、薄っすらした靄を浴びてぼつぼつしか見えなかった。私が前にたって、二段か三段かになった、そのカフェーの入口の石段をあがったところで、中から客が出て来て、扉を外へ開けたので、私は体を斜にして待っていた。学生らしい二人の客が出て、扉がちょと締りかけてから、また一人の女が出て来た。出た拍子に扉を引っかけたのか、女の頭から黒い光のある櫛が落ちて、私の靴の端に微な音をさした。私は踞んでそれを拾ってやって、後を揮り向くと、女も最後の石段に隻足をかけて揮り返ったところであった。