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がまのち
日本怪談大全 第一巻 女怪の館
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页
彼は愛宕下から休まずにてくてく歩いて来たことを考えだした。額には湯のような汗があった。彼は右の手を腰にやった。白い浴衣の兵児帯には手拭を挟んであった。彼は手さぐりにその手拭を執り、左の手で帽子を脱いで汗を拭った。
一軒の茶店のような家が眼の前にあった。そこは路の幅も広くなっていた。一間くらいの入口には納涼台でも置いたような黒い汚い縁側があって、十七八の小柄な女が裁縫をしていた。それは小供小供した一度も二度も見たようなどこかに見覚のあるな顔であった。視線があうと女の口許に微笑が浮んだ。
登の足は自然と止まってしまった。彼はこの女はどこかで見たことがある、どこで見た女だろうと考えてみたが思いだせなかった。彼はまた女に眼をやった。と、女と視線がまたあった。女の口許には初めのような微笑が浮かんだ。彼はそのまま入口の方へ往った。
「すみませんが、すこし休ませてくれませんか、愛宕下から歩いて来たものだから、暑くってしかたがないのです」
「どうぞ」
女はちょっと俯向くようにした。登は縁側に腰をかけて帽子を置き、外の方を見ながら無意識に額から首のまわりに手拭をやった。