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がまのち
日本怪談大全 第一巻 女怪の館
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页
赤い花をさした女の姿は、芳郎の眼前をはなれなかった。翌日、彼はまたその女に逢えはしないかと思って、家の傍の坂をあがったりおりたりして、その辺をさまよい歩いたが女には逢わなかった。
その翌日は冷たい雨が降っていた。彼はまたその雨を冒して坂を上下したが、その日もとうとう見えなかった。
十日ばかりも彼はこうして女を尋ねたが、どうしても逢えなかった。で、やっと諦めてしまったが、それでも赤い花は眼の前にあった。
一箇月ばかりして、彼はまた演説の腹案をこしらえる必要が起ったので、平生のように散歩しながら思想を纏めるつもりで戸外へ出た。
その時はもう春も深くなって、土塀の上に見える邸内の桜は咲きかけていた。芳郎は坂路を登りながら、二十三年に発布になることになっている憲法のことを考えていた。そして、知らず識らず坂を登って往って見るともなしにむこうの方を見た。と、束髪に赤い花をさした女の後姿が見えた。それは彼が探している女であった。彼は久しく逢わなかった恋人に逢ったような気になって、すたすたと走って往った。と、女は背後を揮返って白いな顔を見せた。彼はまたはしたない己の姿に気が注いたのでちょっと立ちどまった。