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がまのち

日本怪談大全 第一巻 女怪の館

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页

青空文庫

馬の顔

暗い中から驟雨のような初夏の雨が吹きあげるように降っていた。道夫は傾斜の急な径を日和下駄を穿いた足端でさぐりさぐりおりて往った。街燈一つないその路は曲りくねっているので、一歩あやまれば転がって尻端折にしている単衣を赭土だらけにするか、根笹や青薄に交って漆の木などの生えた藪畳の中へ落ちて茨に手足を傷つけられるかであった。そこは――学校の傍から――町へおりる捷径であった。普通に――町へ往くには学校の崖下になった広い街路を往くのであるが、それではひどく迂路になるので、彼は平生のようにその捷径を選んだのであった。

道夫はその日友人の下宿へ往って二人で酒を飲んでいた。彼は画家であった。彼は友人の処でウイスキーとビールをごっちゃに飲んで腹の中がだらけたようになっているので、熱い日本酒を飲みたいと思ったが、杖頭がないのでしかたなしに通りすがりのカフェーやおでんやの燈に心を牽かれながら帰っているところであった。

十一時はとうに過ぎていた。小さくなっていた雨がまた音をたてて降って来た。道夫は立ちすくみながら坂の下へ眼をやった。坂の下は黒暗暗として何も見えなかった。