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がまのち

日本怪談大全 第一巻 女怪の館

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页

青空文庫

「おい、おい、君、どこへ往くのだ」

子供は益雄の姿を見つけると嬉しそうな容をして走り寄って来た。

「臨海亭のお客さんだ、お客さんだ」

益雄は何故そんなに子供が嬉しがるか判らなかった。

「どうしたのだ、どこへ往くのだ」

子供は己の周囲を一わたり見廻してから益雄の顔を見た。

「臨海亭へ魚を持って往くところだが、黒い犬のようなものが跟いて来て歩けないのだ、なんだろう、狐だろうか」

「なに犬さ、どこにいるのだ」

「もういなくなったよ、お客さんを見たから逃げたのだろう」

「怖いのか」

「怖かあないが、とうせんぼうするようにして歩けないのだよ」

「君が怖い怖いとおもってるのだから、そんな気がするのだ、いっしょに伴れてってやろうか」

「好いのだ、おいらはお母が待ってるから、急ぐのだ」

子供はくるりと背後向きになるなり、草の間をむこうの方へ走って往った。益雄は子供の気もちがおかしかった。彼は笑いながら歩いた。

小さく咳をする声が虫の音にまじってやさしく聞えて来た。益雄はおや人がいるようだなと思ってその方に眼をやった。右側の雑木の一団が月の陰をこしらえている処に、細ぼそとしたカンテラの燈が点いて、女が一人裁縫しながら外の方を見ていた。