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がまのち

日本怪談大全 第一巻 女怪の館

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页

青空文庫

「冷え冷えして来ました。お入りくださいまし、閉めましょう」

女は益雄の顔を見た。益雄はもうすこしそこにいたかった。

「お邪魔じゃないのですか」

「家は、今、何人もおりませんから、何時までおいでくださいましても宜しゅうございます」

「そうですか」

益雄があがって蒲団を持って入ると、女は起って雨戸を閉めだした。

古い柱の切れ端のような木の台の上にカンテラの燈が微紅く燃えていた。益雄はその燈の傍へ往って坐った。

女はもう針を持たなかった。

益雄は遅くなって女の家をそっと出て帰った。旅館では彼の帰りの遅いのを心配していた。彼の室附の婢はしつこく歩いていた場所を訊いたが、彼は好いかげんなことを云って寝た。

その夜の益雄の夢はやすらかな夢であった。彼は朝になってもう二三日帰りを延す工風はないかと考えたが、そのうちに停車場へ往く自動車が迎えに来たので、しかたなしにそれに乗って出発した。

益雄が東京へ帰り着いたのはその日の午後一時比であった。日本橋で大きな食料品の問屋をやっている益雄の家では、父親の代理であっちこっちの問屋や銀行などに往かなくてはならない用事が溜っていたので、益雄は二三日それに費したが、海岸の女のことが思われてしかたがない。