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にっき

日記

宮本 百合子

06 一九二〇年(大正九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,923 字 · 46 页

青空文庫

五月十五日

五月十六日

初夏であると思う。青葉が快い。もと、森だった小柳津氏の前は、今もうからっとした石燈籠屋になって居る。変るものだ。十二三歳の自分は、いつもあの森と共に記憶されて居るのだ。朝早く起きたので、夜は早く眠り、Aの入って来たのも知らなかった。

五月十五日 土

晴天。朝早く起きることは仕事を捗取らせる。午前中には元の部屋を片づける。書き損じの原稿をやきすて、新しい方にみずやなどを持ち込む。午後は、本をよみものを少し書く。国男と笹川氏とはシコラのセロをききに行った。藤村氏の「新生」は、自分に種々の問題を与える。真正な両性の愛は真に芸術を否定する傾向を帯びて居ると云えるだろうか。私は自分の経験を顧てそうではない。愛は力と智を進めると、云わずには居られないのだ。新しい方の部屋は日光の反射が少し強過る。

五月十六日 日 ○

福井より一夫来る。父母、英、スエ子成田にお礼まいりにと出で行く。(此の日記は、十七日の朝書く。)

昨夜自分は、自分の情慾にかとうとして、努力はしたが失敗してしまった。心は非常な悔恨に満される。Aは決して自分の弱さを攻めはしない。許して呉れる。が其は、善郎さんの小説の中にあったように、彼のうちにもある暗黒がこれに対して寛大な良人たらしめるのではないだろうか。